噛む力とパフォーマンス
噛むことを繰り返すと咀嚼筋の強化につながる。ガムを活用するのも一つの方法
皆さんは食事をする時「よく噛む」ことを心がけていますか。最近の食べ物は軟らかいものが多いため、短時間でいわゆる「流し食べ」をしてしまうことがあるかもしれません。よく噛んで食べることのメリットとしては唾液を分泌し、胃腸での消化・吸収を助けることや虫歯、歯周病などの予防などが挙げられます。また最近は「噛む力」がパフォーマンスアップにつながるのではないかと期待されています。
その理由の一つとして噛む回数を増やす、噛む力をつけることが脳への刺激となることが挙げられます。「ものを噛む」=咀嚼(そしゃく)をした時、その刺激は口周辺部にある神経を通して脳に伝達されます。脳の中でも特に表面部分にある大脳皮質の感覚や運動を司る部分や、バランス能力に関連する小脳などが活発になると言われていますが、「噛む力」が強いときほど、より脳に強い刺激が加わることがこれまでの研究などから明らかになってきました。
この他にも体の安定性を保つバランス能力が「噛む力」と関連するという指摘もあります。体を動かすときに姿勢を崩しそうになる場面をよく見かけますが、このときに抗重力筋(こうじゅうりょくきん)と呼ばれる、重力に対して姿勢を保つために働く筋肉が「こけないように」体を支えます。下肢、体幹から上肢に至るまでさまざまなところに抗重力筋は存在しますが、ものを噛む時に使われる咀嚼筋(そしゃくきん)もその一つです。そのため咀嚼筋が強いほど、体の安定性を保つことにつながると考えられています。
「噛む力」=咀嚼筋を鍛えるためにはものをしっかり噛むこと、繰り返し噛むことが必要です。食事で「よく噛む」ことを意識するのは、胃腸への負担を減らすだけではなく、咀嚼筋のトレーニングにもなります。人は自分の食べやすい側、時には虫歯などの影響などで左右どちらかを多く噛むクセがあると、筋肉の鍛え方にも偏りが生じるため、普段からなるべく左右両方バランス良く噛むことを意識しましょう。ガムを嗜好品(しこうひん=お菓子)ではなく、咀嚼筋を鍛えるためのツールとして使うことも一つの方法です。
よく噛むことは噛む力を強化し、パフォーマンスの下支えとなることが期待できるものです。日頃の食事からよく噛むことを心がけ、また噛み応えのあるものについても積極的に摂るようにしてみましょう。
文:西村 典子
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