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片足でのバランスを保つ中臀筋の役割

2023.08.31


こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

新チームの活動から間もない時期ですが、皆さん次なる目標に向けて日々練習を積み重ねていることと思います。地域によってはすでに秋の公式戦が始まっているかもしれませんね。それぞれの目標に向けてより良いパフォーマンスが発揮できるよう、しっかり準備をして臨んでいきましょう。さて今回は姿勢の安定に役立つ中臀筋(ちゅうでんきん)についてお話をしてみたいと思います。お尻の側面に付着する筋肉ですが、野球のパフォーマンスとどのような関係があるのでしょうか。

 

中臀筋は骨盤周辺部の「上下」のぐらつきを抑える

●中臀筋とは

お尻の筋肉には表層面に「大臀筋」「中臀筋」「小臀筋」が存在し、中臀筋はお尻の側面についている筋肉です。中臀筋が力を発揮すると、足を横に挙げる動作を行うことができます(股関節外転)。また中臀筋は足が地面に固定された状態で、反対側の足を浮かせたとき(片足立ち状態)、支えている側の中臀筋が骨盤を安定させるために働きます。これによって片足の姿勢でも足を浮かせている側のお尻が下がらずに片足の姿勢を維持することができます。基本的な動きである歩行においても、右・左・右・左と足を交互に入れ替えながら、ある一場面においては片足で体重を支えることになりますが、この時にも中臀筋は体が浮いている足の方に傾かないように骨盤を引き上げて姿勢を保持しています。骨盤周辺部の主に上下の「ぐらつき」を抑えると言いかえても良いでしょう。

●野球のパフォーマンスと中臀筋

中臀筋の働きが低下するとどのようなことが起こるでしょうか。

1)投球フォームが安定しない

投球動作に入ったとき、投手はマウンド上で片足立ちになりますが、安定した姿勢が保てなくなるとボールのリリースにばらつきが見られてコントロールが乱れてしまうことが考えられます。姿勢の安定は中臀筋だけではなく、下肢の内転筋や体幹部などさまざまな筋肉が作用するものですが、その中の一つとして中臀筋も姿勢の維持に貢献します。また試合前半は安定した投球フォームであっても、試合後半は片足立ちの姿勢が崩れてしまうといったことも中臀筋をはじめとする筋疲労や筋力の低下などが影響することが考えられます。これらが肩や肘など上肢のケガにつながることもあります。

2)力の伝達がうまくいかない

投球動作では後ろ足がマウンドを蹴って(押して)体重を前方に移動させるようにして力を生み出しますが、中臀筋がうまく働かないと体重移動によって生み出されるパワーが小さくなってしまうことが考えられます。地面からの反力をうまく活かすことが出来ず、思ったようにボールに力が伝わらない…といったことが起こります。これはバッティング動作においても同じで、後ろ足で地面反力をもらいながら前方へと体重移動をするときに、中臀筋がうまく働かないと力のロスが生まれることになります。

3)横方向への素早い動き、切り返し動作に影響する

中臀筋は骨盤の側面に位置し、股関節を外転させる作用があります。この動作が顕著に現れる横方向への動き(たとえば守備や走塁時のサイドステップや切り返し動作など)は中臀筋が大きく関与します。盗塁や帰塁時、守備での一歩目などは片足で地面をとらえて体重移動させますが、中臀筋がうまく働かないとこうした一つ一つのプレーに影響します。

 

片足立ちの姿勢を安定させるために中臀筋は欠かせない

●中臀筋を鍛えるエクササイズ

中臀筋は股関節を外転させる作用があるため、そこに抵抗をかけることで中臀筋を鍛えることができます。市販のゴムバンドなどを利用して輪の中に両足を入れて中臀筋に負荷がかかるようにし、膝を曲げたパワーポジションの状態から横方向に「かに歩き」を繰り返すエクササイズや、横向きになった状態で足を横に挙げるヒップアブダクション、横向きになったサイドプランクから上側にある足をさらに外転させるエクササイズなどがあります。ただしこれらのエクササイズはゴムの抵抗や重力に対して足を引き上げる自重エクササイズであり、負荷としてはあまり大きなものとはなりません。

中臀筋は単独で鍛えるだけではなく、お尻周辺部や下肢もあわせて強化するエクササイズを取り入れましょう。まずは基本となるスクワットで自分の体重をしっかり支えられるだけの筋力をつけるようにし、そこから少し足幅を狭くしたナロウスクワット(通常のスクワットよりも中臀筋に刺激が加わりやすい)、さらには自重から始める片足スクワットなどで中臀筋が骨盤を支えられるように少しずつ強度を上げていくようにします。ランジ動作(フロントランジ、バックランジ、サイドランジ等)についてもお尻の外側の部分を意識しながら行うようにすると、中臀筋を鍛えることができます。さらには後ろ足を台に乗せた状態で片足で行うルガリアンスクワット、前後に足を開いた状態で行うスプリットスクワット(呼び方はいろいろあります)など、フリーウエイトを使って行うエクササイズはより強い負荷を臀部全体にかけることができます。

野球選手はトレーニングを積み重ねることで下半身が安定しますが、これは大きなパワーを生み出す源となるだけではなく、体の安定性を高めるためにも重要なことと言えます。野球に限らずスポーツの場面では片足で体を支える場面が多いため、片足で立っていても「ふらつかない」「ブレない」状態を保持するためにもぜひ中臀筋に着目して、鍛えていくようにしていきましょう。

【片足でのバランスを保つ中臀筋の役割】

●中臀筋は片足立ちのときに骨盤の上下のぐらつきを抑える役割がある
●中臀筋の働きが低下すると「姿勢が崩れる」「力のロスが生まれる」「横方向への動きに影響が出る」
●中臀筋はゴムバンドを使ったり、自重エクササイズを実施することでも鍛えられる
●単独で強化するよりも、臀部や下肢全体を使ってトレーニングを行おう
●はじめは両足でできるスクワットからはじめ、慣れてきたら片足でのエクササイズも行ってみよう
●エクササイズをするときはお尻の外側を特に意識しよう

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 田中 裕毅

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