感染予防のためのコンディショニング【セルフコンディションニングお役立ち情報】
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
秋も深まり、夕方からの練習は肌寒さを感じる日が増えてきたことと思いますが、皆さんは体調など崩さず元気に過ごしていますか。これからますます気温が下がり、空気が乾燥した状態になると、風邪やインフルエンザをはじめとする感染症への備えも必要となってきます。今回は感染予防のためのコンディショニングとして、感染リスクの低下につながる行動や、セルフチェックで知る免疫低下のサインなどについてお話をしたいと思います。
感染症はなぜ発症する?
地球上には細菌やウイルスなどの病原体が存在しますが、こうした病原体が空気や水などを介したり、動物や人との接触を通したりして、人の体内に侵入して増えることを感染と言い、感染によって起こる病気のことを感染症と言います。すべての感染症が人から人へとうつるわけではありませんが、感染症によって体調を崩したり、時には重篤な状態になって命に危険が及んだりすることもあるため、感染症が拡がらないように適切な対応をすることが大切です。
感染症を発症する3つの条件として「病原体」「感染経路」「個体条件」が挙げられます。そして感染症を未然に防ぐためには「病原体そのものに近づかないこと」「病原体の感染経路を遮断すること」「病原体に対する免疫機能を高めること」が必要となります。
感染リスクの低下につながる行動
《病原体そのものに近づかない》
感染症を引き起こすウイルス・細菌などから身を守ることで、感染症にかかるリスクを軽減します。実際には病原体を持つ人を別室に移動させることや、嘔吐物をビニール袋に入れて拡がらないようにする隔離対策であったり、病原体が付着していると思われるものを洗浄すること、さらには病原体が存在していると思われるところを熱湯やアルコールなどで消毒することなどが病原体への対策として挙げられます。
《病原体の感染経路を遮断する》
感染経路には、会話や咳、くしゃみで飛散した細かい水滴に含まれた病原体が目や鼻、口の粘膜を介して感染する「飛沫感染」、飛沫の水分が蒸発して病原体そのものが空気を漂い、粘膜を介して感染する「空気感染」、食べものなどから感染する「経口感染」、病原体が付着したものを触れることで手指に病原体が付着し、その手指で目や鼻、口を触って感染する「接触感染」の4つの経路が考えられます。感染予防として推奨される「手洗い」「うがい」は主に病原体が感染経路から体内に入ることを防ぐ効果があります。またマスクは病原体が体内に入らないようにするだけではなく、感染の疑いがある場合に病原体を拡散させないことにつながります。
《病原体に対する免疫機能を高めること》
免疫低下のサイン(後述)が見られるときは特に免疫を回復させることを優先させる必要があります。毎日練習をしているアスリートは病原体に対する免疫が高いと思われがちですが、激しい運動後は免疫機能が低下することが知られています。筋肉を酷使し、筋線維が傷んでしまうとその部位を修復しようと炎症反応が起こりますが、こうした炎症反応の繰り返しや体力的な疲労の蓄積が免疫低下につながると考えられています。病原体の侵入を防ぐ行動とともに、練習量・トレーニング量を調整して疲労が蓄積しないようにすることも大切です。
免疫低下のサインを知っておこう
病原体に対する免疫が低下すると感染症を起こしやすくなります。免疫低下のサインは自分自身でチェックすることが可能ですので、日頃から自分自身の小さな変化を見逃さないように心がけましょう。
1)休養してもいつも以上に疲れを感じる
運動後の休養や、疲労回復のためのリカバリーがうまくできているかどうか、睡眠によって体の疲労感が軽減されたかどうかを確認しましょう。十分な休養をとっても疲労を感じるときは免疫が低下しているサインと考えられます。
2)なかなか寝つけない、なかなか起きられない
睡眠時間を十分に確保していても、浅い睡眠であったり、寝つき・寝起きがよくない状態が続いたりすると免疫が低下していることが考えられます。起床時に安静時心拍数を測定し、普段よりも心拍数が多い状態が続くようであれば、運動量を減らして疲労回復を優先させるようにしましょう。
3)水分補給を行っても口の渇きが続く
口が渇いた状態というのは唾液の量が減っていることを示唆しています。唾液には病原体の侵入を抑制し、毒素の中和作用を持つ分泌型免疫グロブリンA(SIgA)をはじめ、多くの抗菌・抗ウイルスに関わる物質が含まれているため、唾液の量が減ってしまうと粘膜のバリア機能が低下し、免疫の低下につながります。
ストレスをため込まない
免疫機能を回復する手段として、自分自身が「心地よい」と感じてリラックスできるもの(温浴、アロマテラピー、音楽など)に取り組むことも推奨されています。ストレスをためてしまうと心身のコンディションにまで影響が及ぶことは何となく想像できるのではないでしょうか。誰かに話すことで不安や心配ごとが軽くなるのであれば、チームメイトや友人、両親、先生など身近な人に話を聞いてもらいましょう。また「笑い」も免疫機能を高めることにつながるため、仲間同士で楽しい時間を過ごしたり、好きな動画を見たりといったこともオススメです。生活習慣の面からは十分な睡眠が免疫機能に影響すると言われています。1日7時間以上の睡眠で感染リスクが低くなるといった研究報告もあり、体を十分に休めることが感染予防につながると考えてよいでしょう。
参考ページ)感染症について知ろう(文部科学省)
参考書籍)アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン/独立行政法人日本スポーツ振興センター・ハイパフォーマンススポーツセンター
【感染予防のためのコンディショニング】
●病原体がさまざまな媒介によって体内に侵入することを「感染」、感染によって起こる病気が「感染症」
●感染症を発症する3つの条件は「病原体」「感染経路」「個体条件」
●「手洗い」「うがい」は病原体が感染経路から体内に入ることを防ぐ
●激しい運動を繰り返すアスリートは免疫機能が低下しやすい
●免疫低下のサインは「強い疲労感」「寝つけない・起きられない」「水分補給を行っても口が渇く」
●ストレスをためないような行動も免疫機能に影響する