3割しか出場できない県大会を目指して…愛知の進学校・名古屋南“熱すぎるキャプテン”が語った夢 【野球部訪問】
名古屋南・加藤 稜汰主将
愛知県の高野連加盟校は185校。全国屈指の規模である。愛知県の特徴は春の県大会、秋の県大会には、予選を勝ち抜いた学校しか出場できないこと。春は50校、秋は49校。約3割の狭き門なのだ。残りの7割は出場できずに終わってしまう。
愛知には中京大中京、愛工大名電、享栄、東邦の「私学4強」を含め、強豪私立がずらりと並ぶ。甲子園出場、そして全国制覇を狙うこうした学校にとって「県大会出場」はあくまで通過点。しかし、春・秋の県大会出場を目標に、日々の練習に取り組む学校も多くあるのだ。
その1つが名古屋南高校。名古屋市南区にある公立校進学校で、JR東海道本線笠寺駅が最寄り駅。学校に向かう途中には、コンサートなどを行う日本ガイシホールが見える。名古屋大をはじめ国立大へ進む生徒が多く、野球部員の中には、教職を目指して愛知教育大に進む選手もいるという。
夏では2014年夏の4回戦進出しており、2019年の大学軟式日本代表となった広瀬 蒼大内野手(岐阜聖徳大卒)を輩出している。
今回は選手たちが全幅の信頼を置くキャプテンのもと、春季大会へ向けてレベルアップを目指す名古屋南を追った。
制限も多い進学校の環境でつかんだ県大会出場
名古屋南のグラウンド環境は他の部活との共用で、外野を大きく使える日は週に1日ぐらいしかない。たまたま取材日は外野も使える日で、ノックもできた。それ以外の日は限られた範囲で練習を行っている。最終下校はシーズン中は18時15分、冬場は17時45分。練習環境も、練習時間にも制約がある中で上達を目指している。
そんな名古屋南を支えているのが加藤 稜汰主将(2年)だ。ポジションは捕手。加藤は高校生としてはかなり大人びた選手だった。グラウンドに踏み入れると、「寒い中、わざわざグラウンドにお越しいただき、ありがとうございます」と挨拶を行い、言葉遣い1つ1つが大人と話をしている感覚だった。
練習では、メニューごとで加藤主導でミーティングを行っていた。実戦練習の際のポジショニングの指示を行うのも加藤だ。そして、その声掛けがまた適切。選手たちも、マネージャーたちも、全幅の信頼を置いている。
加藤は学業成績も優秀で、国立大も十分に狙えるという。
「自分は行きたい学校に落ちてしまって」と本人は苦笑いするが、「今はこの仲間たちと野球ができてとても嬉しいですし、楽しいです」と充実した表情だ。
野球部の近年の最高成績は、一昨年の秋に県大会出場。加藤は1年生ながらベンチ入りしていた。その後加藤は、2年時には正捕手として夏の大会を経験している。
「県大会に出場できたことは、自分にとって大きな経験となりました。当時の部員は13人でしたが、なんとか勝ち上がって。僕からすれば、半分奇跡なんですけど、旭丘、名城大附といった名古屋地区でも実力のある学校に勝つことができました。
県大会では、僕自身も出させてもらったんですけど、ヒットを1本打つことができましたが、やはり足を引っ張るようなことも多くしてしまったので、悔しさも残っています。忘れ物ではないですけど、もう一度勝ち上がって、県大会1勝を挙げたいと思っています」
本気で勝ちたいと思うチーム作り、環境を後輩たちに残していきたい
昨夏は2回戦で敗れ、昨秋の一次予選でも敗退。最終学年となった加藤は、チームの目標に「春は県大会出場」「夏はベスト16入り」を掲げた。
ここで県大会に出場するためのルールを説明しておこう。一次予選はリーグ戦形式。
1位校は自動的に県大会出場が決まり、各ブロックの1位校によるトーナメントが行われ、名古屋地区の場合はベスト4入りすれば、県大会では2回戦スタートのシードが与えられる。
2位校は、2位同士のトーナメントに出場し、その予選を勝ち抜けば、県大会に出場できる。22年秋、名古屋南は一次予選で2位となり、二次予選で旭丘、名城大附を破って県大会出場したのだ。
加藤は県大会出場にすること、勝ち続けることの大事さを選手たちに説いている。
「主将の自分から見ても、みんな頑張っていますし、特に1年生たちは能力が高い子たちが多いと思っています。
1年の時、県大会出場したことで、僕からすれば、今まで見たことがない景色が見えました。
基本的に愛知の地区予選はリーグ戦。1回負ければ次があるととられている選手もいるんですけど、自分たちは1回負けた時点でそのチャンスがなくなるんです。僕が県大会出場したときも全部勝ちを掴まないといけない状況の中で先輩たちが勝って県大会出場できたので。
勝った時の達成感は違いますし、後輩たちにもっと見せてあげたいと思っています」
力強く語る加藤だが、新チームがスタートした時、主将を務められるか不安な時期もあったという。それでも続けてこられたのは、仲間たちの励ましがあったから。
「みんなが『加藤だったらついていくよみたいな』と言ってくれたので、全力でやろうと。
世間一般のキャプテン像はいったん捨てて、自分の中でもう1回キャプテン像を作り直そうと考えました。
同じ2年生6人が全員で話せる仲ですし、みんなを信用して、各部門のリーダーに据えた方がずっとやりやすいと思いました」
チームはいま、投手部門、打撃部門、守備部門にわかれている。2年生はその部門のリーダーとして各ポジションの課題を語りながら、上達を目指す。
「自分たちは、残り春と夏しかない。僕の役割は、2年生たちと協力しながら勝てるチームの要素、環境を1年生たちに残すことです」
チームを作り、次世代に引き継いでいく。加藤のような男たちが、今の日本の高校野球を作り上げていったのだろう。
高校野球を支えているのは、熱い思いを持った球児たちだ。
取材・文/河嶋宗一(編集部主筆)