上田誠さん(元慶應義塾高等部監督)「主将の選び方とこれからの指導者の在り方を語る」【後編】
昨今のスポーツ界では、練習のし過ぎによる故障や、行き過ぎた根性論による指導などが問題となっている。しかし、これに対して疑問を呈し、改善を試みようという動きがあるのも事実だ。
今回は、野球界ではいち早くこの問題に気づき、「エンジョイ・ベースボール」の旗印のもと、坊主頭や理不尽な上下関係の廃止、練習のスタイルまで様々な改革を行ってきた慶応義塾高校元監督・上田誠氏にお話しをうかがった。最終回となる後編では、故障やケガに対する考えや、上田氏が思うキャプテン論について語っていただいた。
高校生の故障は、再発が多い
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―― 最近は野球をしている子供たちのケガも多くなってきていますが、ご自身が慶応の監督をされていた時に心掛けていた事はありますか。
まず、故障とケガは違います。故障は悪いフォーム、例えばピッチャーなら投げるフォームで肩を故障する事があるし、バッターなら重いバットで振れって言ったら、腰を故障する事がある。
ケガは練習にメリハリがないときに起こりやすいもの。ダラダラ練習していて、ボールが来た時に誰も声をかけなかったとか。長くメリハリのない練習時間、選手の疲労度を考えない練習メニュー、悪いフォームが抜けない、こういう事に気をつけて練習させてました。
あともう一つ大事なのが、小・中学生の頃の故障やケガをちゃんと報告してもらう事。それに対してのフォローを高校野球の監督はしなければいけない。大体高校での故障は再発なんですよ。だから、高校野球の球数制限もいいが、もっと前の段階、小中学生の段階から、考えないといけないと思います。
ケガや故障のリスクに対する危機感が各地域、各指導者で全然違う。関西の方は野球が強い反面、小・中学校からケガや故障に対する危機感を持っている指導者が少ないように感じます。
―― 最近の子供たちは野球を楽しくやっているように見えない事もある。
楽しくやるのは大事。もう根性でどうにかしようって時代じゃないから。忍耐力をつけさせる事は大事ですが、厳しい言葉や暴力、長時間練習でそれをさせようとするのは違うと思います。
―― 慶応の選手たちは楽しく練習するのでしょうか。
暗い道を通らないと明るいところにはいけないけど、それを監督が強制するんじゃなくて、自分からやらせる事が大事。指導者が素振り1000本させるんじゃなくて、選手自ら力を入れて500本振る方が上手くなる。言われなければやらないでは、その選手は伸びません。
[page_break:面倒見が良いからと言ってキャプテンに向いているわけではない]面倒見が良いからと言ってキャプテンに向いているわけではない
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―― 上田先生はチームのキャプテンをどうやって決めていたのでしょうか。
基本的にはその学年と一つ下の学年の子たちに投票させていました。でも人気がある選手がいても投票しないときもあります。例えば、一番信頼されているけど、キャプテンまで任すと潰れそうな子とかは副キャプテンにして、別の子にキャプテンをしてもらう。選手の意見も聞くし、開票結果も話します。
―― キャプテンのプレッシャーに押しつぶされそうな子とは、具体的にどういう特性があるのでしょうか?
周りの事ばかり考えて、自分が打てなくなっちゃう子。逆に、自分の事ばっかり気になっちゃって、周りがどうでもよくなる子。両方ともキャプテンには向いてない。面倒見がいい選手だからキャプテンに向いているとは限らないです。自分のことと、周りのこと。両方に気を配れるバランスの良い子にキャプテンを任せます。
全然試合に出られない控え部員にも細やかな配慮が出来る子ほど、キャプテンに向いていると思いますね。
―― 今まででいいキャプテンだったと思う選手はいますか。
今JX-ENEOSにいる山﨑錬とか、東芝の佐藤旭とかは社会人野球でもキャプテンをやっているくらいだから、やはりいいキャプテンでしたね。大学や社会人でキャプテンをやる子は、本当に適性がある子です。
キャプテンも色々あって、下手でも、打って投げてプレーで引っ張っていくキャプテンもいます。プロなんかでも、そういうタイプはいます。
上田誠氏の取材を終えて、まさに「固定概念」にとらわれず、新たなことに挑戦する指導者だと感じた。そういう姿勢がまだ古い体質が残っていた慶應義塾をどんどん変えることができたと思うし、慶應義塾の姿勢を学ぼうとしている野球人も現れている。特にネット、SNSの活用はやり方次第で、大きな武器になる。ぜひ現代の指導者、選手はチャレンジして伸びてほしいと思った。その先には野球を深く追求することは楽しいという姿を示してほしい。
(取材=河嶋 宗一)