Interview

「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん 

2019.08.27

 プロ野球をはじめ、高校野球など多くの年代層から人気のミズノプロ。2019年に30周年を迎え、1つの節目となったことを記念し、特別企画でミズノプロに携わったグラブ企画の担当者にインタビューし、当時の話やその時の思いについて語っていただいた。

 今回は、久保田憲史執行役員、寺下正記次長の後を継いだ柳舘宗春さんにお話を伺った。

~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート

ミズノ社内でも抜きん出るグラブ製作チーム

「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん  | 高校野球ドットコム
笑顔でインタビューに答える柳舘宗春さん

 柳舘さんがグラブ企画に携わるようになったのは2006年から。企画担当に異動する前からグラブの仕入れの数を調整する部署に所属していたこともあり、前任の寺下正記さんと話をする機会は何度かあった。また波賀工場の方と企画担当者が話し合う姿も見ていた。

 柳舘さんはその時の様子を振り返ると、「『こんなの出来るか!』と担当者と工場の人が言い争いをしているんです。けどそれはお互いに良いものを作りたいと思ってのことなので、『熱い人たちだなぁ』と感じていました」と少し笑顔をこぼしながら懐かしそうに語った。

 そしてグラブ企画として本格的に始動すると、グラブチームの完成度の高さに驚かされたことを柳舘さんは話す。
 「当時入社7年目の私がグラブの企画担当として3年間携われたのは、それまでの波賀工場の技術や実績などの積み重ねがあったからだと思っています。それくらいグラブの製作チームはミズノ社内でも抜きん出ていましたし、今の立場で見ても凄いと思っています」

 出来ることはしっかりと完成させ、お客様が使用するうえで品質リスクがあることはしっかり回避する。そしてやりたいことに対してのアイディアも豊富に持ち合わせる。そんなグラブ製作チームのレベルの高さに、柳舘さんは凄さを感じている。

「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん  | 高校野球ドットコム
柳舘宗春さん

 では柳舘さんは、波賀工場を含めたチームとどんなミズノプロを作ったかというと、2009年より販売スタートとなったバイオソウルテクノロジーである。

 このグラブは『自分の手のようにグラブを動かしたい』というコンセプトの下、手の動きにグラブがついてこられるように力の伝わり方を計測。そのデータに基づいて、力がかかる部分には内側に充て革を張ることで力を伝えることを可能にした。

 「爪があるからモノを掴めると同じように、力を伝えるときはその部分が硬くなければ伝えることができないです。そこでグラブの内側に剛性を出すようにしました」

 しかし、コンセプトである『自分の手のようにグラブを動かしたい』というのは、ミズノのブランドアンバサダーであり、日本が世界に誇る守備の名手・イチローの言葉だったのだ。

[page_break:理想を形にする精神がミズノプロを支える]

理想を形にする精神がミズノプロを支える

「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん  | 高校野球ドットコム
笑顔を見せる柳舘宗春さん

 「年に1回大阪本社にイチローさんが来てくれる時に『自分の手のように使いたい』とおっしゃっていたんです。イチローさんのニーズであれば、全野球選手に繋がると思いましたし、お客様にも伝わると考えたのでコンセプトにしました」

 このニーズを実現するために、柳舘さんは工場の方と協力してグラブ企画をスタートさせた。
 「私はお願いをするだけですが、工場やデータを集計する担当者は大変だったと思います。特に波賀工場の方とは量産でも品質が安定する設計について話ことが多かったです」

 そこで言い争いをすることもあったが、互いにお客様に安全で理想を形にした良いものを1つでも多く届けたい一心があるからこそ。そのなかでどうやったら性能や品質の良いものを多く生産できるのか、そこのベストな方法を話し合って探し続けてきた。

 またコスト面も柳舘さんは大事だと話す。
 「クラフトマンシップに則って、ボールを捕るために最適な材料や型を価格帯やお客様に合わせてベストを見つける。そのなかでミズノプロは『自分の手のようにグラブを動かす』ことがコンセプトだったので、それに合わせて作っていきました」

 『お客様が求めるものを届ける』という共通理念をもって取り組み続けてバイオソウルテクノロジーは完成。柳舘さんはこれをもってグラブ企画を離れ、違う部署へ異動した。

「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳舘宗春さん  | 高校野球ドットコム
笑顔でポーズをとる柳舘宗春さん

 そんな柳舘さんがかかわったミズノプロが2019年に30周年。今の立場になってミズノプロをどう見ているのか。柳舘さんに話を聞いた。
 「環境問題などがあるので、天然皮革の調達が難しい。ですので、維持するのは大変だと思いますが、ミズノプロを求めるお客様に届けるのは責務だと思います。また、適正価格でプロ野球選手から子供までミズノのフラッグシップモデルとしてグラブを届け続けることで、野球を根付かせていく。それも責務だと思います」

 当時は実際に波賀工場や製革工場へ足を運び、モノづくりの勉強を行った。「その時の自作グラブは変な形になり、実際に作るのは『大変だろう』と言われましたし、仕入れ担当の時には知らなかった多くの人たちがグラブに携わっていることを知りました。あの3年間は充実していて忘れられないです」

 ミズノプロは歴史を背負った最高峰のグラブだというのは過去のインタビューから見えてきた。しかしNO.1だからこそ、道具という一面だけではなく野球界の未来を担う大事なモノなのである。そのことを知ることが出来た。

 同時に、ミズノの社内で脈々と受け継がれるお客様の理想を形にするクラフトマンシップの精神がミズノプロを支えている。この心構えが印象に残った。

(記事=田中 裕毅

~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳館宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.23

大阪桐蔭が名門・日体大に1勝1分け! スター選手たちが快投・豪快弾・猛打賞! スーパー1年生もスタメン出場 【交流試合】

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!

2024.06.24

秋田の組み合わせ決まる!明桜が初戦からいきなり金足農と対戦、初戦から秋春の王者対決【2024夏の甲子園】

2024.06.23

【宮城】24日に抽選会!仙台育英優位も、他校にも十分チャンスあり、ノーシード東北の抽選結果にも注目<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.23

大阪桐蔭が名門・日体大に1勝1分け! スター選手たちが快投・豪快弾・猛打賞! スーパー1年生もスタメン出場 【交流試合】

2024.06.18

今夏埼玉の注目野手18人! ドラフト1位級の花咲徳栄スラッガーを筆頭に浦和学院・昌平らに大型選手が揃う【埼玉注目野手リスト】

2024.06.18

昨夏甲子園出場の東海大星翔進路紹介!遊撃手は阪神、エースは専修大、主将はレギュラーとして大学選手権出場!

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.06.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在41地区が決定、長崎、高知、新潟、大分などでシードが決まる〈6月10日〉

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】