藤井vs土庄
目覚めた大器、魅惑のアーチで試合を決める!
「打った瞬間、レフトフライと思った打球は打った本人すら「上がりすぎと思った」ほど高く、高く飛んでいく。
まるで阪神・西武で観衆を魅了した田淵幸一(現・東北楽天コーチ)の現役時代を思わせる放物線を描いた打球はバッターボックスから約100m先にある外野芝生席へ到達。
藤井の超攻撃的リードオフマン・鈴木貴史(3年)が8回表に「ストレートを狙って左中間に思い切って引っ張った」という高校通算31本目・今大会第一号となる決勝2ランは、そう表現したくなるほど魅力にあふれた一発であった。
181センチ85キロのプロ級サイズにもかかわらず50メートル走6秒0の韋駄天。さらに先に記した長打力を持ち合わせる鈴木。
だが、これまでの公式戦における彼は活躍以前にもろさが同居、いやもろさが多くを占めていたという表現の方が適当なものである。
事実、この試合でもホームランの全打席は土庄の先発左腕・三谷進太郎(2年)のインコース直球に全く対応できず見逃し三振。
160センチにもかかわらず9回にライトオーバーのタイムリー三塁打を放ち試合を完全に決めた6番・主将の中川勇人(3年)ら、藤井の十八番となっている「小兵俊足型選手」と比べ、なかなか結果を残せない日々が続いていた。
しかしこの試合では、それまでをもって余りある値千金の一発。
今後「今までの呪縛を解き放った一打。これでこれからはやってくれるでしょう」と小林大悟監督の笑顔に対し、大器が目覚めから覚醒へと変化することで応えることができるとすれば・・・。
香川の2012年・夏はさらなる盛り上がりを見せることになるだろう。
(文=寺下友徳)