坂出商vs高松桜井
3年生から1年生へ。引き継がれたマスクと魂
「香川の夏」。そして「四国の夏」開幕カードは、終盤まで白熱の展開となった。
1回に敵失で先制したのは坂出商ながら、序盤は相手先発・小松凌のスライダーに手も足も出なかった高松桜井も4回表に無走者から3番宮下和也(3年)以下が怒涛の4連打。最後は白川佳章(3年)が自らを助けるタイムリーで逆転する。
だが、昨夏は17年ぶりにベスト4まで進出した古豪・坂出商はこれにも全く動ずることはなかった。
すかさず5回表には5番山本貴士(3年)のタイムリーで同点に追いつくと、続く6回には一死三塁から9番十川貴行(3年)が見事なスクイズを決め再逆転。その後も計6個の犠打を絡め4点を追加した彼らは、高松桜井の反撃を抑え、2回戦への進出を果たした。
「後ろへつなごうと思って」放った打球は相手レフトのグラブへ。想いも虚しく高松桜井・最後の打者となった1番ファースト・平井健士朗(3年)は、もう踏む必要のないはずの二塁ベースをしっかり踏みしめてから、最後の挨拶へと向かっていった。
新チーム結成時、平井の定位置はキャッチャー。182センチ76キロの堂々たる体格と「ゲームに出たら常に一生懸命やってくれる、根性の塊のような奴」と新鞍幸一監督も評する真面目なキャラクターが特長だった。
昨秋県大会では絶対的エース・白川佳章(3年)の2試合連続完封で初のベスト8進出を果たした高松桜井。その一因には、間違いなく彼の存在があった。
それが一転、春は初戦敗退に終わって「守りに入ってしまった」(新鞍幸一監督)彼ら。
そこに森健輔という一年生のキャッチャーが台頭し「6月くらいから練習試合で白川とも組ませていけると思った」ことで、指揮官は夏を前に大型コンバートを行う決断を下した。
かくして平井はマスクを奪われファーストへ転向。普通なら腐ってもおかしくない状況である。
しかし「何の不満もなく受け入れた」平井はぶれずに練習に取り組むばかりでなく、投手がブルペン通り試合でも投げられる術を森に全て伝授。いざ本番となったこの日も、気持ちを切り替える声かけを一塁ベースから常に続けたのである。
「平井さんはキャッチャーとして僕の知らないことや、とてもいいアドバイスをくれました。3年生が練習していた姿を見習って来年以降は1勝でも多く勝てるようにしたい」。残念ながらこの日は緊張から坂出商打線を抑えきれず、期待に応えることができなかった森。
だが、平井からマスクと同時に魂を引き継いだ彼の戦いは、高松桜井の伝統となって、これからも続いていくはずだ。
(文=寺下友徳)