運動後の体とコンディショニング
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
本格的なシーズンが始まり、公式戦が行われている地区も増えてきました。連日の練習や試合で体に疲労がたまっている…という選手も少なくないのではないでしょうか。今回は激しく体を動かした後の体はどう変化しているのかということと、オーバーワークや疲労によるケガを防ぐために、皆さん自身ができるセルフコンディショニングについてお話をしたいと思います。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
運動後の体はどうなっている?
運動後の体にはどのような変化が見られるだろう
激しい練習や試合の後はクタクタになって「疲れたな」と感じることがあると思います。このとき体はどのような状態になっているでしょうか。代表的なものを挙げてみます。
《エネルギー源の枯渇》
私たちは体を動かすために必要なエネルギー源(糖質や脂質など)を食べ物・飲み物から摂って体に蓄えていますが、動いているうちにエネルギー源は少なくなってきます。特に糖質は体に多く蓄えることができないため、運動時はこまめに摂る必要が出てきます。運動後は体の中のエネルギー源が枯渇している状態と考えられます。
《筋肉が傷つく》
体を動かすと筋肉は動作にあわせて伸び縮みを繰り返します。運動では強い負荷がかかったり、繰り返し負荷が加わったりするため、筋線維は程度の差こそあれ傷ついていると考えられます。小さな損傷(微細損傷)からトレーニングなどの強い負荷によって筋肉痛を引き起こすようなもの、そして肉離れにつながるほどの大きなダメージまでさまざまあります。
《体の調整役であるミネラル(電解質)を失う》
ミネラルとは生体を構成する主な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素のことを指します。ミネラルの中でも体液中でイオン化し、体内の水分調整や筋肉の動きのサポート、体内物質の輸送などを担う物質を電解質(カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなど)と呼びます。これらの電解質は激しい運動を行うと体温調節のために排出される汗に含まれて、水分とともに大量に失われます。
《自律神経を司る脳へのストレス》
自律神経には交感神経と副交感神経という二つの神経があり、体の調節を行っています。運動時には、運動強度や体調に応じて酸素や栄養素を全身に行き渡らせるために心拍数、呼吸数を増やし、体温が高くなりすぎないように汗をかいて調節することを行います。またプレッシャーやストレスへの対応や体をリラックスした状態に保つといった役割も持ち合わせています。運動によって体にかかる負荷が大きくなるほど、自律神経の中枢にかかる負荷も大きくなり、自律神経を司る脳に大きな負担がかかって疲労が起こると言われています。
《活性酸素の大量発生》
運動をすると、酸素が多く消費されるとともに活性酸素も発生します。活性酸素は体に必要なものですが、ある一定量を超えて体内に大量に蓄積されると活性酸素による酸化ストレスによって神経細胞が傷つき、疲労の一因となることがわかってきました。以前は乳酸の蓄積が疲労につながると考えられていましたが、乳酸はエネルギー源として再利用できるため、現在では「乳酸=疲労物質」という考えは否定されています。
運動後はこうした体の変化によって疲労していくため、疲労をため込まないようにできることから改善していくことが大切です。
[page_break:運動後にできるセルフコンディショニング]運動後にできるセルフコンディショニング
エネルギー源や水分・ミネラル分補給を目的とした補食は欠かせない
運動後に起こる体の変化を理解し、それに適したコンディショニングを行っていくことが疲労回復につながります。
《補食や食事でエネルギー源や水分、ミネラルを補給する》
運動によってエネルギー源や水分、ミネラル(電解質)が失われるため、補食や食事などで補う必要があります。エネルギー源の一つである糖質は体内に多く蓄えることがむずかしいため、運動強度や運動時間を考慮しながら補給するようにしましょう。練習や試合前後の補食は糖質を含む物を中心に準備するようにします(おにぎり、パン、バナナ等)。あわせて汗で失われる水分やミネラル(電解質)を補給するための飲み物などもとるようにしましょう。補食はメインの食事量に影響が出ないように時間帯・量を調節しましょう。
《オーバーヒートしている時はアイシング》
投球後にアイシングをするかどうかはその状態によって判断すると良いでしょう。筋肉は多かれ少なかれ傷ついていますが、痛みや熱感(触ったら熱く感じること)、腫れといった炎症症状が見られる場合はオーバーヒートを抑えるためにアイシングを行うようにします。突発的なケガに対する応急処置と同じように扱います。一方、特に痛みなどもなく、筋疲労によって動きが悪くなっている場合は軽い負荷を用いてローテーターカフ(いわゆるインナーマッスル)や肩・肘、下肢などをエクササイズで積極的に動かし、あわせてストレッチを行って筋肉が硬くなってしまうことを防ぐようにします。ただしストレッチペインがある(ストレッチをすると痛みが出る)場合は患部をアイシングすることを優先させましょう。
《細胞修復に必要な血流を促す》
筋肉の収縮による直接的なダメージだけではなく、活性酸素などによる酸化ストレスで傷ついた細胞を修復させるためには血流を促して、必要な酸素や栄養素が細胞に行き渡るようにすることが大切です。筋肉が硬くなると血流不全につながりやすいのでストレッチを行うこと、そして体を直接的・間接的に温めて血流を促すようにしましょう。直接体を温める方法としてはバスタブに使って体全体をお湯につける入浴法や、温かい飲み物や食べものなどを積極的にとって体の中から温めることが挙げられます。間接的なものとしては運動後に軽くジョギングを行う等、体を動かすことによって体温を上げることなどがあります。
《十分な睡眠をとる》
細胞の修復を促すためには十分な休養・睡眠が必要不可欠です。いくら体に良いコンディショニングを行ったとしても睡眠不足では十分な疲労回復が見込めません。脳へのダメージを回復させるためにもまずは睡眠時間を確保すること、そして睡眠の質にもこだわって生活習慣を整えることを心がけましょう。
運動後に体が受けるダメージを理解し、回復につながる生活習慣、コンディショニングを実践することがケガ予防にもつながります。試合で良いパフォーマンスを発揮するためにも、ぜひできることから実践していきましょう。
【運動後の体とコンディショニング】
●運動後に起こる体の変化を理解しよう
●エネルギー源や失われたミネラル分はこまめに補給する
●患部へのアイシングは痛みや腫れがあるかどうかを一つの目安とする
●活性酸素による酸化ストレス、筋線維へのダメージを回復させるために血流を促そう
●十分な睡眠が体や脳を回復させる
●ケガをしないためにも日頃からできることを実践しよう