試合レポート

砺波工vs富山第一

2010.07.29

2010年07月28日 富山市民球場  

砺波工vs富山第一

2010年夏の大会 第92回富山大会 決勝

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砺波工

徹底した準備と執念で掴んだ初優勝

待ちに待った甲子園だった。
村井実監督が就任して13年。今年のチームにかけていた。
このチームには中山翔也がいる。俊足、変化球にもうまく対応する巧打、球際に強い守備。春からは本格的に投手としてマウンドにも登るチームの大黒柱だ。中山は兄がいた関係で砺波工を選んだが、中山が来ると聞いて他のメンバーも集まってきた。捕手の齋藤恭平は、中学時代、高岡商の鍋田浩成とバッテリーを組んでいた。富山県の公立校の教員は通常10年程度で異動になる。だが、中山らが入学するとなればチームを離れるわけにはいかない。村井監督は「彼らのいる3年間だけでも」といって、任期を延ばしてもらった。
そして、そのチームは順調に力をつける。
秋の富山県大会は準優勝。春の富山県大会は優勝。甲子園は現実味を帯びた。

なんとしてもこのチャンスを生かしたい。
村井監督は思いつく限り、すべてのことをやった。夏に悔いを残さないためだ。

メンタルトレーニングの導入、専門家主催のトレーニングキャンプ参加、強化食による体作り……。食が細い選手たちのために食事を目的にした合宿、体力強化のためのトレーニング合宿、打ち込みのための合宿など週末ごとにたびたび学校に泊まり込んでの合宿も行った。

大会前には3つのドラムがついた最新式の打撃用マシンも購入。このマシンでは、通常のマシンではできない縦の変化、斜めの変化などのボールを打つことができる。「お金もないのに衝動買いしました」と村井監督は苦笑いするが、それもこれも、昨夏、昨秋と敗れている最大のライバルである高岡商のエース・鍋田の縦スライダー対策のためだった。

7月上旬には、大会で使用される球場を借りて練習。特に、今年4月に人工芝が張りかえられた富山市民球場では、ボールの弾み方を入念にチェック。大きく弾むのを見て、三塁走者のギャンブルスタートの練習をくり返した。また、広いファールグランド対策として、カバーリングの練習も行った。

やることはすべてやった。
できる準備をし尽くして臨んでいたため、結果もついてきた。
3回戦の不二越工戦では、3点を先行される苦しい展開。だが、5回まで2安打無得点と苦戦していた相手投手が代わってくれたスキを逃さず8回に逆転した。準決勝の富山商戦では、1死二塁から二度、7番の竹部俊之にセーフティーバントを指示。ともに内野安打になり、チャンスを拡大した。
「バントはああいう弾み方をするのがわかっていたので、セーフになると思っていました」
大会前に確認した準備の成果をしっかりと示した。
疲労が蓄積される準々決勝以降は、報道陣に「3人の取材は短めでお願いします」と頼み、試合後すぐに中山、吉田将之介、齋藤のバッテリー陣に疲労回復のための点滴を受けさせた。「朝起きたときの体が違う。効果がありました」(吉田)。準決勝、決勝と2日連続で先発した中山も、体感40度の猛暑となる富山市民球場での連投に耐え抜いた。

これだけやってダメなら仕方がない。
そう思えるほどの準備をしてきたから、決勝の初回に2点を先制されても慌てなかった。
「最後に勝つのはウチのチームだと信じて我慢しました」
4年前には決勝で伏兵の富山福岡に、初回に4点を先制しながら1点差で敗れて甲子園の切符を逃した。昨年は、同じ砺波地区の南砺福野が甲子園出場。砺波地区で初めてとなる甲子園をさらわれ、しばしば「面白くない」ともらしていた。
村井監督にとって、砺波工では最後となるであろう甲子園へのチャンス。だからこそ、妥協したくなかった。
最後の打球となるフライをショートの中山が掴んだ瞬間、村井監督は大きくガッツポーズ。池端正樹部長と抱き合って喜んだ。
「負けばっかりのチームだったのに、OBもよくついてきてくれました。本当にうれしいです」
砺波市にある高校としては、初めての甲子園出場。
ほぼ自費で野球部専用のバスを購入してから13年。
村井監督の執念でつかんだ初優勝だった。

(文=田尻 賢誉


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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