報徳学園vs神戸弘陵
ラストサマーらしく、熱のこもった熱戦
9回表の攻撃。二死後に打席に立った神戸弘陵の5番魚森章太(3年)が空振り三振に倒れると、石原康司監督は静かにその時を受け入れた。
「コーチ、監督を合わせて約30年、最後に良い投手と対戦して終われたので、それは良かったと思っています」
長らく歩いてきた指導者としての道を、この試合をもって終えることになった石原監督。
複雑な思いはあるだろうが、その花道にふさわしいピッチングを相手の報徳学園エース・田村伊知郎(3年)は披露してくれていた。
1回こそ、2四球で自らピンチを招くも後続を断ち、回を重ねるごとに自分らしさを取り戻していく。
「今日は腕をしっかり振ることを心掛けてきました。でも、初回は制球に気を遣いすぎて腕を振れていなかったです。そんな中でも、早いカウントから勝負できたし、自分のピッチングは出来たと思います」と田村は振り返る。
9回を投げ、打球が外野に飛んだのはわずか5球。高低をしっかり突ける絶妙なコントロールに「予想以上の出来だった」と石原監督も舌を巻いた。
でも、神戸弘陵の投手陣も負けてはいなかった。先発の西田裕亮(3年)は3点を失ったものの、被安打は3。
5回途中からマウンドに立った井上和真(2年)もその流れを引き継ぎ、報徳学園打線から快音を許さなかった。
ただ、1回の好機を逃した後の失点は、やはり悔やまれる場面だった。
「(二死一、二塁の)チャンスで田村君に打席が回ってきたとき、歩かせてもいいかな…と思っていたのですが。それでも、以降のピンチでもピッチャーは粘り強く投げてくれました。ヒットは結局うちが2本しか打てませんでしたが、良いゲームが出来た。最後の試合が報徳で良かった」と指揮官は感慨深い様子だった。
試合後のナインも、ただ涙に暮れるだけではなく、実に清々しい表情を見せていた。
甲子園出場経験のある名門同士がぶつかった一戦は、指揮官の最後の姿を見送ると同時に、神戸弘陵の新しいスタートを告げていた。
スターティングメンバー
【神戸弘陵】
9池上純人
8戸田聖哉
4長谷川奨 (主将)
7小池郁弥
5魚森章太
3大浦制覇
1西田裕亮
2他谷新平
6阿部力哉
【報徳学園】 (主将)上野太一
6佐渡友怜王
8勝岡静也
4永岡駿治
9吉田昌矢
1田村伊知郎
3片濱大輝
2中村寛
5岸田行倫
7伊地知悠真
(文=沢井史)