都立片倉vs東亜学園
伸び伸び明るい野球で、ベスト4
高校野球のチームにとって、伸び伸びと明るくプレーすることがいかに素晴らしいか、そのことを片倉の選手たちが具体的に結果として示してくれた。そんな試合だった。
片倉には神奈川県の私立高校から転校してきた金井貴之という注目の投手がいる。そして、金井が試合を作っていくことでチーム全体も盛り上がっていって、ますます意識が上がっている。そういう展開の中でチームとしてのモチベーションを作れる環境が出来ている。そんな選手たちの意識を宮本秀樹監督が、上手に持ち上げていくことによって、片倉は最高にいい雰囲気で試合に臨むことが出来た。
良い雰囲気で試合に入れた片倉は、1回から具体的な形で結果を出していった。
片倉の初回は、先頭の鳥巣裕太が内野安打で出ると、バントで進め、小林章のセンター前ヒットで返すという効率のいい攻撃で先制。さらに二死二塁から内野ゴロの送球ミスで加点した。これで、試合の主導権を握れた片倉は、2回にも四球の走者を三塁まで進めて、鳥巣のレフト前ヒットで追加点を挙げた。
3回は、安打と失策で一二塁とすると、バント失敗があったがそんなことを気にする間もなく、6番長谷川太良、7番金井の連続安打で得点して序盤で5対0と大きくリードした。
これで、金井投手も楽に投げられた。5回までは、東亜学園打線を無安打に抑えていた。6回に初安打を許したものの、ほとんど危なげのないものだった。この日はストレートは最速144キロをマークしていたが、球速だけではなく投手としてのまとまりのよさを感じさせるものだった。
金井自身も、「今日は、ブルペンでもストレートが走っていると感じていましたから、初回から良い感じで投げられました。神宮のマウンドはとても気持ちよかったです。スタンドにも、多くのお客さんが入ってくれて見てくれたので、嬉しかったです」と、笑顔で話していた。気分よくマウンドに登って、調子のよさをそのままぶつけることが出来たナイスピッチングだった。
宮本秀樹監督も、「金井には、低めに丁寧に投げなさいということだけを言ったんですけれど、今日はその通りに投げてくれましたね。都立旋風とか、そういうことを言われますけれど、ここまで来たらそういうことではなく、いつも通り自分たちの野球を明るく、楽しくやろうと、そういうつもりで戦いました。神宮球場は…、やっぱり勝ったからいい球場でしょう。とても、気分よかったですよ」と、終始、自分たちの野球が出来たということを強調していた。そして、「またコイツらと、野球が出来る」ということを喜んでいた。この日は、左腕の小田嶋冶真人を投入することなく戦えて、片倉としては余裕も出来た。
試合ごとに、守りもどんどん上達しているという印象を与える片倉だが、リラックスしていくことで、戦いながら意識も高まり、プレーとしてもより優れたパフォーマンスを示すことが出来ているという相乗効果を表しているようだ。
よく、「立場が人を作る」というけれども、高校野球でも勝っていくことで、「状況がチームを作る」ということがいえるのではないだろうか。今大会の片倉は、まさにその通りである。
このムードが続く限り、片倉の勢いは止まらないだろう。
東亜学園はエースの古川響が、立ち上がりから球が浮いてしまっていて本来の投球が出来なかった。4回からは左腕の林琢己を投入したものの、既に大きくリードを許していたという状況で、最後まで自分たちのペースに持ち込むことが出来なかった。
上田滋監督は、「初回は、1点目は仕方がないとしてもエラーで失った2点目は大きかったですね。あれで、金井君に楽に投げさせられるようになっちゃったからね。対策として、金井君が力んでくれて、乱れさせようと思っていたんだけれど、リラックスして楽に投げられてしまったから、ああなったらこっちは完全に力負けですよ。それに対して、古川は内容が悪すぎました」と、完敗を認めていた。
秋季大会、春季大会ともにベスト4と安定した成績を残していた今年の東亜学園。上田監督も混戦の西東京の中で「今年はチャンス」と狙っていただけに、落胆も大きかったようだ。
(文=手束仁)