明徳義塾vs高知
明徳義塾先発・岸潤一郎
「最終決戦」へ高まる機運。壮絶延長戦!
5月21日・月曜日の朝。高知県内では路上で東の空を眺める人が数多く目に付いた。もちろんお目当ては日本全土的に次は300年後とも噂される「金環日食」観測である。
ところが当日の高知県上空は厚い雲が覆い、空が見えた時間、地域はほんのわずか。神秘的な天文ショーの実感はその時間帯に薄暗くなった照度だけで終わった。いわゆる「期待外れ」だ。
しかし、当日午後に準決勝・高知中央戦での勝利で夏の第1シードを決めた明徳義塾と、第2シードを決めた高知による「平成24年度第65回高知県高等学校体育大会硬式野球の部」決勝戦は期待通り。いや、金環日食をも遥かに上回る熱いゲームとなった。
その中には1回・高知先発の坂本優太(2年)が押し出し四球を含む3点を与え、対する明徳義塾も4対3で迎えた7回表に3連続守備連携ミス(うち1つは内野安打)で一時同点に追いつかれるなど、技術不足に起因する空回りも多々あった。しかし、その一方で技の競演も十分堪能できるシーンもあった。
例えば明徳義塾では「5月時期の公式戦1年生4番」として先発した岸潤一郎の投げては4回まで高知打線を無安打に封じ、打っても3打数3安打という活躍。一方、高知ではその岸を6回表に一振りで捉えた高知4番・法兼駿(3年)の2ラン。そして3年間は雨天打ち切りが続き、実に4年ぶりとなる今大会での頂上決定戦以前に、「明徳」「KOCHI」のユニフォームを見ると自然に沸き立つお互いの闘志は、終盤にクライマックスを迎える。
優勝した明徳義塾
5対4、明徳義塾リードで迎えた9回表・高知は1死から安打、死球、安打で満塁の好機を作ると、センバツでは背番号「7」を背負いながら悔しい途中出場に終わった北代滉(3年)が意地の同点打。さらに延長10回には1死1・2塁から岡﨑賢也(3年)の欠場などにより今大会3番に座っている芝翼(3年)が、緊急登板した4番手・小方聖稀(2年)のフルカウントからのストレートを強振。打球は数秒後、レフトポールを直撃し、グラウンドへ。「四国大会準決勝コールド負けから続く嫌なイメージがあった。だから、今大会では選手たちの頑張りをぶつけたかった」島田達二監督の意図を見事に汲んだつながる野球で、高知は圧巻の3点勝ち越しを果たしたのである。
一方、高校野球的にはセーフティーリードを付けられた明徳義塾。名将・馬淵史郎監督ですら「四国大会準決勝では法兼に(決勝アーチを)ライトポールへぶつけられて、今度はレフトポールと思った」と、第1シードを確保した余裕からあきらめの境地に入りつつあったが…。選手たちは全くあきらめていなかった。
延長戦でもマウンドに立った坂本に対し、まずは死球と安打でえ無死1・2塁とすると「思い切って引っ張れ」とベンチから送り出された小方が右中間を真っ二つに破る二点二塁打。さらに1死3塁から普段クールなキャプテンの1番・合田悟(3年)が一塁ベース上での咆哮付きの右前打。わずかこの回9球で同点にした明徳義塾は、さらに1死満塁とすると代打・高橋拓也(2年)が一塁手を強襲するゴロ。前にこぼれたボールを拾い上げ、ホームへ投じた芝の返球はわずかに逸れ、明徳義塾が奇跡的なサヨナラ勝ちを収めたのである。
その瞬間、春季四国大会優勝より明らかに喜びの表情を見せる明徳義塾。その瞬間、鳴門にサヨナラ負けした昨秋四国大会決勝戦より、明らかに悔しさを露わにする高知。夏は決勝戦まで対戦しない両者だが、最終決戦への機運はこの死闘によりさらに熟した感がある。
(文=寺下友徳)