芝vs立正
大型左腕登場!
最近、東京の大型投手でプロ入りした投手といえば、右投手が多い。2006年から高卒でプロ入りした投手を列挙してみるとこうなる。
斎藤佑樹(早稲田実業―日本ハム)
大田亜斗里(帝京―横浜DeNA)
高島祥平(帝京―中日)
三ツ俣大樹(修徳―オリックス)プロ入り後に野手に転向
伊藤拓郎(帝京―横浜DeNA)
吉本祥二(足立学園―ソフトバンク)
他にも大学球界で活躍する吉永健太朗(日大三―早稲田大)、山崎康晃(帝京―亜細亜大)も右の本格派。
右の本格派投手が近年の東京の高校野球を盛り上げていったといいだろう。
今年の東京も大高光(日大鶴ヶ丘)、池田隆英(創価)、川口貴都(国学院久我山)と右投手が目立つ年である。(※3投手は全て西東京大会に出場)
東京で好左腕といえば、どちらかというとテクニックで勝負する左腕が多い。その最たる例が垣ヶ原達也(帝京―青山学院大―Honda)。
大田と共にダブルエースとして活躍し、抜群の制球力で、完成度の高いピッチングを演出する左腕であった。技巧派左腕は存在しても、大型左腕は少ない。それが東京の左腕事情だった。
前置きが長くなってしまったが、将来、楽しみな大型左腕候補が登場した。その名は芝の田中裕貴。1年生である。
187センチ72キロ。カタログスペックだけで、見栄えする逸材。サイズ通り、すらりとした投手体型で、手足が長く、肩肘も柔軟性を感じさせ、華奢だが、素材としては素晴らしい。
芝にとっての夏初戦で、田中は公式戦初先発として登場した。
投球フォームは横浜Denaの上昇株・王溢正(ワン・イーゼン)を彷彿とさせる。
セットポジションから始動し、右足を真っすぐ上げて、左足は一本足で立つ。重心を少しずつ下げていき、インステップ気味に着地する。
べた足に着地することなく、前膝を伸ばして、着地のタイミングを遅らす。彼の長所は上半身の使い方。内回りの旋回で、しっかりとトップを作り、肘を上げる事が出来ている。
そして振り下ろすように腕を振っていく。
上から振り下ろしていくが、窮屈さも感じないスムーズな腕の振りだ。ただ気になるのは最後のフィニッシュで、うまく体重が前へ乗っていかないので、あまりストレートは来ていない。
目測で130キロ半ばであると思うが、フィニッシュまで鋭く腕が振れるだけでも、135キロ前後は到達しそうなポテンシャルを感じさせてくれた。
変化球はカーブ、スライダーの2球種を投げていたが、腕の振りが緩んでしまい、上手く決まっていなかった。課題としては変化球の精度を磨くことと、高めに抜ける事が多いので、低めの制球力を磨いていくことであろう。
あとは下半身の細さがやはり気になる。ただ、まだ高校1年生なのでこれから鍛錬を重ねれば楽しみだ。恵まれた才能を伸ばすには継続してトレーニングを重ね、フォームをより良いものとして、パフォーマンスを発揮することが出来るかだろう。
ランナーが出ていても慌てる様子は見られない。
4回裏にはこの試合初のヒットを許し、一、二塁のピンチを迎えたが、二塁走者の三盗失敗で二死となった後、リードが大きい一塁走者を見逃さずに牽制で刺す一面があった。
ベースカバーも抜かりなくこなしており、凡退になってもベンチに戻るまで手を抜かずにしっかりと走っていて、グラウンド上では手抜きをしない姿勢はとても良い。
田中は5回まで投げて無失点だったが、6回からマウンドを譲った。試合は序盤までに5点を奪った芝が立正の反撃を1点に抑え、3回戦進出を決めた。
未完成だが、順調に育っていけば、大型左腕に成長する可能性を秘めている。
将来東京を代表するかもしれない未完の大型左腕。ぜひ注目していただきたい投手だ。
(文=河嶋宗一)