大島vs鶴丸
投手戦を制す
今にも雨が降り出しそうな空の下で大島の2番濱崎健輝(3年)は「良い打者が後ろにいるので、つなぐ気持ちで」打席に立った。
延長10回一死二塁。カウント3ボール1ストライクから渡邉恵尋監督のサインはヒット&ラン。降り出してきた雨を切り裂くような鋭い打球が左中間を抜けていく。今大会ようやく出た初安打が、4時間13分にも及んだ死闘を決定づける二塁打になった。
今大会、濱崎は不振にあえいでいた。積極性があって「松田(賢斗・2年)がいなければ1番を打たせてもいい」(渡邉監督)打者だが「突っ込み過ぎて初球を簡単に打ち上げてしまう」のが玉に傷。
ここまで2試合はその悪い癖が出て、チームに貢献できずに苦しんだ。
2回戦の後で一度、島に戻って気持ちをリフレッシュ。フォームを少し変えてみたのは2日前だった。「リラックスして、腰を据えてどっしり落ち着いた構え」を意識するとボールがよく見えるようになった。
10回の打席に立つまで4打席凡退だったが、バットがしっかり振り切れて、凡打の当たりも良い打球が飛んでいた。両者毎回のように好機を作りながら、互いにものにできず、終盤は再三の雨で3度も中断するような我慢の展開だったが「チャンスで打てなくても、下を向くマイナス思考な選手はいなかった」
先発の池田優也(3年)、6回のピンチの場面からリリーフした2年生・松下勇一(2年)、好投した投手陣のためにも、何とか打撃陣が援護したい気持ちが最後まで途切れなかった。
「4回戦に勝ち上がれば、島に残っている30人も応援に来られる。ベスト8で全校応援は主将の夢。1つ1つ勝ち上がっていきたい」と、162㌢の小柄な2番打者が大きな夢を膨らませていた。
一方で、2回戦に続く2度目の延長戦をものにできなかった鶴丸だが、徳重貴久監督は「充実した1点差ゲームだった」と振り返った。
1回から毎回のようにピンチを背負いながら、投手陣、内外野ともに粘り強く守り9回まで無失点で切り抜けた。
昨秋は喜界に、今春は沖永良部にいずれも初戦サヨナラ負けで「鶴丸史上最弱と言われた年代。夏も勝てないのでは」(加藤歩主将)という不安との戦いだった。
最後の夏は初戦で沖永良部に雪辱し、2回戦は枕崎との延長15回の死闘を制した。「3年生が背中でチームを引っ張ってくれた。勝てなかったのは正直悔しいけど、このチームでやれて幸せでした」と加藤主将は胸を張って言い切った。
(文=政純一郎)