【小関順二がストップウォッチで有力選手を分析!】「勝てる」の言葉に裏付けられた東海大四の戦略
東海大四が序盤に逆転した浦和学院との一戦。どのようにして、浦和学院の好投手・江口奨理から得点を奪ったのか?スポーツライター・小関順二氏が独自の視点で分析します!
「勝てる」の言葉に裏付けられた東海大四の戦略とは?
15年くらい前に取材した帝京・前田 三夫監督は関東の高校野球を「勢いがつくと一気呵成に相手を粉砕するが守勢に回ると脆い」と言った。当時の帝京の脆さも語っていたわけだが、前田監督はその脆さを解消しようと、当時強豪の名をほしいままにした徳島・徳島池田をはじめ、西日本の有力校を行脚してその学校の監督の人柄や練習に触れて参考にしようとした。ちなみに関東の脆さについては智弁和歌山の高嶋 仁監督も口にしていた。
浦和学院については2年前、2013年の選抜大会を制して甲子園大会での脆さを払拭したかに見えるが、その年の選手権に初戦敗退(試合レポート)するなど相変わらず「不確実な強豪校」という印象が消えない。
この試合中、近くにいたスポーツライターが「浦学らしくないですね」と言うので、私は「浦学らしいじゃないですか」と返した。自身の前評判が高いときほどコケる、相手が低い評価のときほどコケる——それがかつての浦和学院の姿だったので、意地悪く「浦学らしい」と言ったわけで、ベスト4進出校に対して本当に脆いと思っているわけではない。しかし、自分たちのほうが強いと思えるときほどコケるかつての“浦学らしさ”は、残念ながらこの春も発揮されてしまった。
2回表に3連打で先制の1点を奪ったときには何点入るのかと思った。下位打線とは思えない打球の強さを見たら誰でもそう思ったとだろう。まさかそれ以降、1点も入らないとは。東海大四の先発、大澤志意也(3年)がよかったことは間違いない。ストレートを±10キロのスピード差で操って幻惑し、変化球はスライダーとスローカーブにキレがあり、直曲球とも低めと両コーナーへのコントロールを間違わなかったことが好投につながった。
対する浦和学院の先発、江口奨理(3年)は縦の変化球を持ち味とする左腕だ。準々決勝までの3試合すべてを完投し(1回戦の龍谷大平安戦は11回を完封)、失点・自責点とも1というのが素晴らしい。
「縦変化球」と書いたが、「真縦」と形容したほうがいい。とくに見事なのがチェンジアップの落差とキレ味で、打者は大げさでなくバットに当てるが精一杯たありさま。この江口をどう攻略するのかに注目が集まったが、東海大四打線はストレートではなく、江口の勝負球である縦の変化球に狙いを定めて、見事に攻略した。
試合後、主力選手邵広基(3年)に話を聞くと、勝てると思って試合に臨んだという。さらに狙い球を具体的に「左打者はカーブとスライダー、右打者はチェンジアップ」と話してくれた。私が江口の縦の変化球が“真縦”ではなく、疲れからか“斜め”になっていたことや予想外にチェンジアップが少なかったことを言うとそれもきちんと把握し、追い込まれたカウントでストレートがきても対応できる自信があったと胸を張った。
これらのことから、東海大四の「勝てる」と思ったことにはきちんと根拠があったと考えていい。5回と7回には点にこそならなかったが渡瀬太揮(3年)と山本浩平(3年)が二盗を決め、対する浦和学院は2回と3回に走塁死があった。
3回の走塁死は1死二塁の場面で起こった。5番幸喜勇諮(3年)の投手ライナーを大澤がはじくとこれをショートの冨田勇輝(3年)がダイレクトで捕球し、塁を飛び出していた二塁走者にタッチして併殺完成というラッキーぶり。9回表には代打・新谷剛樹(3年)の低いライナーを守備交代したばかりの左近太勢(3年)が頭から突っ込んで好捕するなど、采配の冴えも見られた。勝つときは何もかもがうまくはまるという好見本のようなゲームだった。
ストップウォッチにも目を向けよう。終盤戦は疲れが溜まり、全力疾走ができにくいはずだが、「一塁到達4.3秒未満」などのボーダーラインを浦和学院は2人(2回)、東海大四は3人(4回)がクリアした。そして「一塁到達5秒以上」などのアンチ全力疾走は両校とはゼロ。準決勝にふさわしい熱戦だったと言っていい。
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浦和学院:江口-西野
東海大四:大澤-小川
二塁打:臺、江口、津田(浦)
(文=小関順二)
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