Column

前橋育英高等学校(群馬)【後編】

2014.12.26

「日本一、会話の多いチーム【前編】」では、2013年の全国制覇のチームの練習雰囲気や、会話を重ねる中でチームのセオリーが生み出す前橋育英の取り組みを紹介しました。後編では、強さを追い求めた結果、見出した荒井直樹監督の思いもお伝えしていきます!

何を言うかではなく、誰が言うか。日頃から信頼される人間になる

 前橋育英が会話の多いチームであるとはいえ、全員が気付いたことを言葉にしたり、アウトプットするのは、すぐに出来るようになるものではない。そんな時こそ、やはり、キャプテンや上級生で信頼の厚い選手たちが、まずは、そういったコミュニケーションが取れるためのチームの土台を作っていくことが大切になってくると、荒井監督は言う。

「みんなでこうしよう!というのが無理だとしても、みんながこうしよう!となるような一言があればチームは変わっていきますよね。その選手の発する言葉の重みがあるかどうか。普段、適当なことをやっている選手が言っても『なにが?』ってなると思うんです。
だからこそ、何を言うかではなく、誰が言うか。そういう信頼関係をまずは普段から作っておくと、コミュニケーションは取りやすいと思います」

 実際に全国優勝を果たしたチームは、キャプテンの荒井 海斗を中心に、コミュニケーションを取りやすい土台が出来ていた。3年生の工藤 陽平は振り返る。
「先輩たちは、僕たち後輩にもよく声を掛けてくれましたし、まとめる力がとても大きかったですね。監督やコーチからも指導されることも少なく、選手中心に雰囲気を作っていっていたので、そこは自分たちの代でも継続してやっていこうと話していました」

前キャプテン・工藤 陽平君(3年生) 手には、3年間書き続けた野球ノート

現チームを率いるキャプテンの飯塚稜ニ郎もまた、
前橋育英というチームの強みは、お互いにいいところも悪いところも遠慮せずに話せるところだと思います。誰かがミスした時に、そこに対して何も言えないのではなくて、『どうすればいいか?』を自分たち選手同士でちゃんと話せるのが良いところ。

 この秋の大会では、県大会決勝戦で敗れましたが、そこを振り返った時に、僕たちは、1アウトから点を取るという意識が足りなかった。チャンスの場面で凡打が続いて無得点に抑えらたあとに、点を取られる傾向があったんです。だから、バントでもエンドランでも1アウトからでも点を取ることが課題だと気付きました。相手に点をやらないための1点。春は、そういった戦いが出来るチームになりたいです」

 日々の練習、そして試合後も、常に選手間での会話を続け、チーム内コミュニケーションを高めていく前橋育英ナイン。

 また、そんな彼らを支えているのが、荒井監督に1週間に一度提出している“野球ノート”。ここには、監督に直接は相談しづらいことも、誰にも言えない悩みも苦しみも、書き綴ることができる。そんな選手たちの思いに、荒井監督は毎回、丁寧に赤ペンで、一人ひとりに熱いメッセージを書き綴っているのだ。

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チーム内 コミュニケーション術
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強くなるためのヒントは、自分のチームの中にある

荒井直樹監督

 荒井監督が、チーム内のコミュニケーションを高めることが強いチームにつながっていくと気付いたのは、ふとしたことだった。

「まだ甲子園出場の夢が果たせなかった頃、いろんなチームの練習を見させていただいたこともありました。また、うちの練習も、甲子園で結果を残してからは、何か特別なことをやっているんじゃないかと見に来てくれる方もいましたが、チームが強くなるヒントって、結局は、『自分のチームの中にある』と、ある時、気付いたんです。

 僕もいろんなところに行って、そこで学んできたことを取り入れても、中々続かなかったんですよね。その中で気付いたのが、特別なことをやり続けたから、強くなるんじゃなくて、何か出来ることや、当たり前のこと続けていたら、それが出来るようになるんだということ。
結局は、身近なところにヒントが転がっていました。今ここにいる選手たちからヒントをもらえばいいんだなと思ったら、すごくラクになりました」

 それが、前橋育英の場合は、『普段の何気ない会話をコミュニケーションの一つとしてやってみる』ということだったのだ。

 練習や試合で、なにか問題があったときに、それを流さずに受け止めて、会話をしていく。当たり前のようなことを、当たり前に取り組み続けたことで、強いチームが、そこから育っていった。

全国制覇
を果たした代も、「決して野球の力が高かったわけではない」と荒井監督は話す。それでも、5回までノーヒットで抑えられていても、終わってみれば試合をひっくり返している。接戦にも動じず、我慢強く、相手をねじ伏せる力がある。

 それこそが日々、仲間のことをよく見て、互いに言葉を交わしてきたからこそ強められた信頼感であり、自分を、そして仲間を信頼しているからこそ、生み出された本物の強さだった。

 荒井監督は、最後にこう言葉をつないだ。
「野球は、人の生き方と一緒。結局、人は自分だけでやれることは、ほとんどないんです。自分じゃなにも出来ない。いろんな人がいて、一つのことが完成するんです」

 同じグラウンドの中にいる仲間と会話をすること。生きた声を常に出して、相手に伝えること。それが、荒井監督が、巡り巡ってたどり着いた、強いチームを育てるための一つの方法だった。

(文・安田 未由

前橋育英が日本一に輝いた2013夏の主将・荒井海斗が3年間書いた野球ノートとは?
『野球ノートに書いた甲子園2』に掲載中!

チーム内 コミュニケーション術

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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