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バイオメカニクスから見た障害とピッチングフォームの関連性(2) 「状況別のフォームのメカニズムについて」

2015.04.06

 最終回では正しい腕の使い方、また状況別によってフォームのメカニズムが違ってきます。その点について説明をしていきたいと思います。

正しい腕の使い方は

(1) テイクバックで伸展、内旋で後にひく
(2) 接地までの0.2秒でトップまでいく間、拳上させながら外転、水平外転、外旋され
(3) 接地したらすぐに水平内転され骨頭を前へすべらせ転がし、正しい関節内運動に合わせて腕を使っていき、肩の外転、水平内転の合力のベクトルで最大外旋する。
(4) そのまま体の回転とともに両肩軸も回転させて、内旋させ、勢いのままに腕を振る。

 肩を痛めやすい未熟なフォームはテイクバックの時、拳上角が20度くらい大きく水平外転は20度くらい少ない。俗に言う、担ぎ投げである。担いできてテイクバックから一気に水平外転で肩を引き上げようとしている。担いでいく関節内の運動と外旋の運動が一致しないため肩は上がってこないが、骨頭はぶつかるのでトップの位置から外旋させながら神輿を担いだ位置に腕を持ってこようとする。これではインターナルインピンジメントをチェックテストしているのとまったく同じ形である。

 トップポジションとはつまり、接地0.1秒前に上半身の回転が始まり接地後には10度開いている。俗に言う「トップの時はすでに体は開いている」のである。しかしトップにおいてボールが一気に上に上がり外旋される。これはすごいスピードで上半身が回転しているペースに合わせているのである。
と同時に、肩の水平内転と外転で機能的に肩は外旋していく。この時骨頭がきちんと後方へいく形をとれない。担ぎ投げでは体のみ回転して腕が残るので後方のインピンジメントになってしまう。

【写真:選手名鑑 一二三 慎太(東海大相模)より】

4.サイドスローとは

 オーバースローのピッチャーがサイドスローにして大成するパターン、肩の痛みがなくなるパターンがある。これはなぜなのか。サイドスローとオーバースローの最大の違いはテイクバックの時、ヒザを後傾できるか、できないかだ。オーバースローの投手はそれができるが、サイドスローの投手はヒザを後傾させることができずにヒザが屈曲しないのを、下方の重心移動を骨盤の前傾で補って投げることができる。このタイプはサイドにした方が良いだろう。

 テイクバック時にセンター方向にオーバースローは20度の傾きが、サイドは30度、前傾は44度もとっている。お辞儀くらい下げている。体が前傾すれば肩甲骨も前傾するため、腕は上がりにくく伸展あげになりテイクバックでは30度しかあがらないから水平外転も55度である。トップでも拳上80度と50度の水平外転と俗にいう腕の出にくい形である。

 もちろん外旋が出にくくボールは上がりにくいので、この形からオーバースローにするにはどこかで上体を起こして肩甲骨を後傾させなくてはいけない。すると体を後傾させるわけだがこれは左肩が開き前方方向に体重移動ができにくく重心移動時にまっすぐ進まない背面飛びを投球フォームにしたフォームである。結果腕の出にくいフォームになり球はいかない。またインターナルインピンジメントになりやすい。

 もしテイクバック作りにヒザの後傾で重心が下げれないフォームなら、サイドスローにすべきかクセを治してオーバースローにすべきである。
そしてサイドスロー最大の特徴は、腰骨の移動が84%と多い第1段階15%、第3段階15%、サイドスロー、オーバースローは大きくひいた腕が出ないのを重心の前方移動で補っていると言える。サイドスローほど軸脚の蹴りでテイクバックからの前方移動の加速がポイントと言える。

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[page_break:状況に応じてのフォームの違い]

5.体幹と上胴の回旋について=手投げとは何か?

 腕は120度回り、上胴は230度も回り上半身が2倍多く可動している。プロでは腰の可動が大きくアマは上が大きい。手投げとは腰の可動が少ないのを上半身の動きで補っているともいえる。またどちらも動かない場合は最悪である。

6.ヒザの開きと投球フォーム

 接地した時ヒザは約5度開き、リリース時には約20度開いている。開いているピッチャーは肩の高さが90度、リリースで115度。開いていないと98度でリリースは120度である。ヒザが横に開いていくのは回転が前額面上になっているからであり、水平面で回っていない。水平面ならばヒザは伸展に後傾していくはずである。開いていけば利き手が下がる回転になる。これは接地の足の位置の間違いであり、力のベクトルが間違っている。いくらヒザを閉じても仕方なく、フォームを治す必要がある。

状況に応じてのフォームの違い

【写真:野球部訪問 春日部共栄高等学校 より】

7.ピッチャーの好調時と不調時のフォームの違い

■第1段階
・まず腕の組む位置をチェックする。悪い時は下がってくる=体の前傾が出ている。体幹をキープしておらず重心が前にずれている(俗にいう猫背であり開きやすいフォーム)
・脚の上げる高さ、ひねりの可動域が小さくなっていないか
・重心力、足を上げてひねった時後ろにいっていないか

■第2段階
・腕の位置が高ければテイクバックも上がりやすい
・体幹がキープされて重心が左右にぶれない
・接地時に利き手側に強く傾いていると接地後は回転がメインなので体幹の動きが出にくくなり、上半身の回転が少ないフォームになり腕が出てこないフォームにもなる=水平内転トルクも減るので最大外旋が出にくく球速も上がってこない。

■第3段階
ふみこみ脚のヒザの屈曲が増していき重心が上方に進む。ふみこみ脚の地面反力を利用できないフォームかどうか。

■第4段階
ここでもヒザが屈曲していては腕の減速が腕のみという、かなり障害の危険のあるフォームと言える。

8.投球の腕の角度

■ボールを投げる時

・上半身の回転エネルギーを腕に伝達させるには左肩→右肩→上腕→前腕→手首→指→ボールがリリースで一直線になること。
・最大外旋位、接地後一気に上昇してリリース直前には減速して一気に内旋へと加速する。
・肘の角度の70度~90度で固定でリリースでは160度になる。
・肩は直線的に進み(求心力が必要)水平内転されていく。
・最大外旋で腕が上がり次に内旋が始まり外旋中間位で肘が伸展し始める。
・体の回転の先には下半身か水平回転していた脚の肢関節の地面反力で上半身が回り、回転の伝達が伝わりエネルギーが末端へと流れ、上半身の左回旋で肩の水平内転が出て、外転トルクの合力で肩は最大外旋して肩の内旋トルクで肘は伸びていくが、これではボールは遠心力でサード方向へいくのでコアを中心として求心力が大切になってくる。

 投球ブレーンで大切なことはふみこみ脚の肢関節の使い方だ。その角度に合わせ力を変えて腕を持っていくこと。(ベーシックラインに上体をまわしてくること)
接地後には肩が腰を追い越していくのが0.06秒後。これに合わせるように一気に外旋速度も高まっていき、リリース直前の0.03~0.04秒前に最大外旋位が出て外旋位80度になり、そこから外旋20度でリリース水平内転は2度、肘は160度で最大速度は肩の内旋がリリース時、肘の伸展はリリース直前である。

 前腕は回転14度で手首はリリース0.035秒前で最大背屈40度をとり、20度背屈、尺屈位でリリース。接地0.2秒前に下半身が加速、0.1秒前に回転が始まり、上半身が接地0.06秒後に一気に腰を落としていき、リリースの0.03~0.04秒前に最大外旋位がでてリリースする。
接地後0.12秒でリリースなので腕の速さは高速であり、リリース前0.03~0.04秒の間に肩の内旋のトルクが出てリリース時には最速するタイミングが大切である。

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[page_break:下半身の使い方とスタミナとのフォームの関連性]

9.球の速いピッチャーの特徴

(1)最大外旋位の時の体幹・骨盤の向き
(2)コッキング期の骨盤の回転速度
(3)加速期の上半身の回転速度
(4)最大外旋位の量
(5)リリース時の体の前傾(重心がよりキャッチャー方向に)
(6)踏みだし脚の膝の伸展利用(地面反力の利用)
(7)肩の内旋トルク

下半身の使い方とスタミナとのフォームの関連性

股関節、肩、肘は怠らずにストレッチを行おう

10.下半身のトルク

(1)軸脚の膝伸展、足の底屈
(2)踏込脚の股関節の伸展、内線・外転、膝の伸展、足の底屈

 しかし膝や足はエキセントリック収縮であり股関節の収縮もエキセントリックである。下半身は接地前には大きい力を発揮しており接地後エキセントリックで土台の固定の役目がほとんどであり、下半身のパワーの発揮は接地前の形からトレーニングをすることで接地後の土台をキープするエキセンリックな固定力がテーマになる。

11.初回と降板回の違い(ピッチャーのスタミナとは)

 ピッチャーが降板した回、要は調子が悪くなってきたときの特徴は?

(1)球速が落ちる
(2)最大外旋角の低下
(3)リリース時のヒザ角度
(4)肩、肘の筋力の低下
(5)リリース時の水平外転トルクの低下

 逆に言えばこの部分を鍛えることが球速の落ちにくいフォームになると言える。ただやみくもにランニングしたからといって投球のスタミナがつくわけではない。それはエネルギー効率の話であり、ピッチングのスタミナとはこの(1)~(5)の要素を何回投げても落とさなければよい。

(1)外旋のストレッチ
(2)スライド(歩幅)が狭くなっていないか
(3)テイクバックから並行運動の重心の高さを維持するドロップのエキセントリックなトレーニングと、接地後の踏込脚のエキセントリックなトレーニング
(4)肩・肘の筋力トレーニング、特にコアの回転と肩の外転・内旋
(5)水平外転のチューブトレをおこないフォロースルーのエキセントリックな筋力を高める。

以下の記事もあわせてチェック!
第42回 肩部のコンディショニング3-3(下)
第41回 肩部のコンディショニング3-3(中)
第40回 肩部のコンディショニング3-3(上)
第39回 肩部のコンディショニング3-2
第38回 肩部のコンディショニング3-1 
第37回 肩部のコンディショニング2-2
第36回 肩部のコンディショニング2-1
第35回 肩部のコンディショニング1

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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